欧米の経済活動再開にらみ円安優勢

コラム

[東京 22日] – 3月に111円台まで上昇したドル/円JPY=が、4月には一転して一時106円台まで下落したが、円高リスクが高まっているとは言いがたい。ドル円の下落はドル安によるものであり、円高によるものではないからだ。

クロス円は全般的に上昇の兆しを見せており、円はドル以外の主要通貨に対してはむしろ下落している。つまり、円安には傾いているものの、それを上回るドル安によりドル円は下落したのである。

<ドル安と円安のバランスが変化する公算>

ドル安と円安が同時に進むのは、リスクオンの相場パターンである。

最近、欧州に続き米国でも新型コロナウイルスの新規感染者数の増加ペースが鈍化しつつあり、このことがリスクオンに働いている。

世界的には日本を含めて新規感染者数が増え続けている国は少なくないが、それでも中国、韓国に続いて欧米で減少しつつあることが、感染拡大への懸念を後退させているようだ。

また、欧米の景気指標は大幅に悪化し、市場予想を下回るものが多いにもかかわらず、リスクオフに転じて大幅な株安や金利低下を招くほどの影響を与えなくなっている。

新型コロナの感染拡大が鈍化すれば、移動制限が緩和されて景気が回復に向かうとの期待があるためだろう。今後、欧米の新規感染者の伸びは鈍っていく可能性は高いだろうし、当面はリスクオンに傾きやすいと思われる。

リスクオンでは通常、ドル安よりも円安が優勢となりやすい。ところが、ドル安が優勢となってドル円が下落する局面があるのは、3月に強まったドル需給のひっ迫が、主要中銀のドル・スワップ強化や米連邦準備理事会(FRB)の無制限の資金供給によって緩和しているためだ。

ただ、あくまでも必要な需要に応じてドルが供給されているのであり、ドルが供給過剰になってドル安が進むわけではないだろうから、リスクオンにある限りは円安が優勢となり、ドル円が上昇に転じる可能性は十分にある。

FRB

<一本調子ではない緩やかな円安傾向へ>

とはいえ、リスクオンの円安が一本調子で続くことにはなりにくいだろう。感染拡大の鈍化を受けて移動制限が緩和されると、景気指標は改善するはずだが、それとともに再び新規感染が拡大するリスクがあるからだ。

欧米で4月に感染者の増加が鈍化し、5月に移動制限が緩和されて景気が回復しても、6月以降に再び感染が拡大し、7月以降に移動制限が強化されて景気回復が抑制される可能性は排除できない。感染の鈍化と拡大、景気の回復と悪化のサイクルを繰り返しながら、世界経済は緩やかに回復していく可能性が比較的高そうだ。

世界的に景気回復が緩やかとなった場合には、企業収益予想が下方修正され、株価下落を余儀なくされる局面も出てくるかもしれない。リスクオンの円安とリスクオフの円高を繰り返しながら、一方的ではない緩やかな円安傾向となるのではないか。

<金融緩和継続には円安抑制と促進の両面>

新型コロナの感染終息が視野に入るまでは、移動制限は緩和されても解除されにくいので、企業活動や消費者心理がコロナショック前の水準まで早期には回復しにくいはずだ。設備投資、雇用、個人消費に下押し圧力が働き、景気改善は緩やかになりやすいと思われる。

そうなると、失業率の低下やインフレ率の上昇が十分に進むまでに長期間を要することになり、FRBや欧州中央銀行(ECB)などの金融緩和政策が長く続きやすくなる。主要中銀の低金利・量的緩和継続により、海外金利上昇による円安は抑制されやすくなるだろう。

しかし、一方では、主要中銀の量的緩和による流動性供給がリスクオフを抑制(リスクオンを促進)する面もあるだろう。流動性供給が乏しく金利上昇が進んだ場合には、景気悪化懸念が生じた際にリスクオフをもたらしやすいが、流動性供給が潤沢で金利上昇が抑えられていれば、リスクオフは抑制されやすい。中銀の金融緩和継続には、リスクオフの円高を抑制し、リスクオンの円安を促進する効果もあるだろう。

<年内はドル105ー113円程度か>

2019年3月以降の相関に従えば、日米の10年国債金利差が0.5―1.0%の場合、ドル/円は106―108円程度が傾向値となるが、リスクオフなら同水準を下回りやすく、リスクオンなら上回りやすい。今後は一本調子ではないながらも、新型コロナの感染拡大の鈍化に応じて「リスクオンの円安」に傾きやすいと考える。

20年中は、同金利差が0.5―1.0%程度で低迷しやすいとしても、緩やかなリスクオンの円安傾向のもとで105―113円程度のレンジを形成すると予想している。

なお、海外に比べると日本の移動制限は緩いので、感染拡大の鈍化の時期は遅くなりやすいが、それでも5月までにはピークアウトする可能性がある。日本経済の悪化懸念が「リスクオフの円高」を招くことも、欧米に比べた景気回復の遅れに対する懸念が「日本売りの円安」を招くこともないだろう。欧米の新規感染抑制を受けてリスクオンの円安へ向かう可能性が比較的高いと考えるべきだろう。

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